タクラマ談話室 第3回

正月以来、月イチのトークゲストが定着したタクラマ館だが、果たしてこんなことがいつまで続くのか?
そろそろ息切れじゃないのか? という不安を抱きつつ、今月、
開館1周年記念快感ゲストは、
燃焼系パワーで花粉も吹き飛ばすカリフォルニアからの使者、飯干真奈弥嬢だっ!
その熱い肉声を、トークと写真でたっぷりお届けだっ!

飯干真奈弥 (いいぼし まなみ)

1978年生まれ。慶応義塾大学文学部哲学科美学美術史専攻(芸術論・映画論)卒業。
東京大学大学院新領域創成科学研究科メディア環境学専攻修士課程修了。
大学院在籍中にDCAJ情報経済基盤整備コンテンツ制作基盤事業として開発に携わった映像制作工程管理ソフト「Eizo Works」が、2002年度AMDアワード The Best Producer賞を受賞。
現在、米国Academy of Art College, Motion Picture & Television学部にて映画制作を勉強中。



大嶋 どうも、今月のゲスト、飯干真奈弥さんです。

飯干 大嶋さんて、面白いよねえ。こんな、あたしのインタビューなんかで、ちゃんとレジュメ作って、テープ回して、写真まで撮って…

大嶋 まあ、そういう性分なんで(おいおい、いきなりため口かよ)。ええと、飯干さんの経歴は、ほんと学科の名称とか長ったらしくて読むだけでぐったりなんですが、要するに慶応で映画論の勉強してて、そのあと東大の大学院で映像制作のソフト開発をやって、今はアメリカで映画制作の勉強してるってことですね。

飯干 まあ、そうですね。

大嶋 机上の理論からだんだんと実践にシフトしてる感じですよね。大学時代には自主映画のサークルに入ってたりとかは?

飯干 いや、それはないっす。大学時代は、広告研究会に入ってミスコンのプレイベントとかやってました。コマーシャルに興味があったんで。あとはジャズ研にちょっとだけいたり…

大嶋 そのあと東大の大学院に入ったのは?

飯干 大学の専門が映画論だったんで、卒業してすぐ映画制作の勉強するってのも考えたんだけど、リサーチしてみたら、日本の場合、大学出てからの受け皿があんまりなかったんで。ちょうど東大にメディア関係のコースが出来たとこだったんで、まあ、ノリで。

大嶋 ノリでねえ(苦笑)。









飯干 私もともと映画の中の物語っていうのにすごく興味があって、卒論も「ポリフォニーとしての映画」っていうんだけど。

大嶋 ポリフォニー?

飯干 「多声」「複声」っていう意味で、歴史物語みたいな「単声」的な「大きな物語」の枠組みから逃れるための、ポストモダン的な手法のひとつなんだけど、そこで映画における「ポリフォニック」という手法を考えてみたのが、わたしの卒論だったわけ。

大嶋 なるほどなるほど(全然わかってない)。

飯干 そういう勉強をしてたら、「じゃあ物語っていうのは、どういう法則があるといわゆる物語とよべるんだろう?」という疑問が出てきて…。もともと物語っていうのは、基本は18通りくらいしかなくて、そこから派生して、原因があって結果がとか、枝葉がいろいろくっつくことでストーリーが分かれていって…

大嶋 ああ、そういうことね。私は「劇的境遇36」って言い方で昔教わりましたよ。

飯干 ハリウッドでよく使われてる「ドラマティカ」っていうのは、その辺のところから物語を組み立てていくソフトウエアなんだよね。

大嶋 コンピューターがドラマを作るっていうのは70年代から可能性としては取り沙汰されてたけど、それが現実のものになりつつあるってことね(ちなみにうちの父は、そのころ東京電機大学の池田益夫教授とそういう研究をしてました、余談ですが)。まあ、その辺の合理的な発想は、いかにもハリウッド的だなあ。

飯干 もちろんその弊害ってのもあるんだけどね。キャラクターにしても話の展開やエピソードの挟み込み方にしても、どうしても類型的になっちゃうっていうか。

大嶋 でもハリウッド映画のシナリオって、ほんとバランスが取れてるからねえ。細かい伏線の張り方や脇のキャラクター設定なんかも行き届いてるし。コンピューターが介在してるって聞いて納得ですな。


これが「ドラマティカ」のぶ厚いマニュアル。日本版は出てません


飯干 で、その「ドラマティカ」に限らず、あっちには映画制作の工程管理ソフトなんかもいろいろあるんだけど、日本にはまだほとんどそういうソフトがなくって、それで、大学院の濱野(保樹)先生に、日本でも作ってみたらいいのに、みたいなことを院に入ってすぐくらいの時に言ったのね。そしたら、先生のほうでも、以前からそういう計画を練っていたのに実現していなかったらしくて、先生の研究室に「ムービーマジック」っていう工程管理ソフトの旧バージョンなんかが置いてあったの。で、最初のうちそれをお借りして研究材料にして…

大嶋 そういう流れで、濱野ゼミとして本格的に「Eizo Works」の開発に乗り出すわけですか。

飯干 濱野ゼミと、あと企業数社でプロジェクトを立ち上げて。あたしは向こうでソフトを買い込んで来たり、必要な機能をリストアップしたり…

大嶋 その企業のひとつがボイジャーだったわけだよね。実は飯干さんと知り合ったのもそのボイジャーがらみで…

飯干 大嶋さん、前にボイジャーで働いてたんでしょ?

大嶋 働いてたっていうか、「火星のわが家」のシナリオ執筆のために、電子出版のことを教えてもらいに行ったら、社長の萩野さんから「そういうのは実践で覚えるのが一番だから、試しに一冊作ってみるといい」って言われて…

飯干 そっか、それでボイジャーに通って作ったんだ。

大嶋 まあ、勉強になりましたよ。その時は、以前に出してた随想集「引っ越し魔の調書」を電子出版化して、マックワールドで売ったりもしました。まあ、そういう縁があったんで、「Eizo Works」のマニュアルなんかでは、「火星のわが家」が作品実例として使われてるわけ。忘れもしない、飯干さんと最初に会ったのは、おととしの3月、ちょうど2年前ですよ。外苑前のテピアで「Eizo Works」のお披露目があって、萩野さんに呼ばれて見に行ったら、壇上で紺のパリッとしたスーツを着たお姉ちゃんが、颯爽とソフトの使い方の説明なんかやってるんだよ。

飯干 颯爽となんかじゃないよ(苦笑)。自分が出るなんて思ってなくて。結構ギリギリに言われたような気がする。ああいうの、笑っちゃうよねえ。

大嶋 いやいや、様になってましたよ。そのあと串焼きの店かなんかで、萩野さんやスタジオ・アロの西口さんなんかとも一緒に飲んで。そうそう、女優の三坂知絵子さんも来てたよねえ。

飯干 三坂ちゃんは同じ濱野ゼミの同級生だから。

大嶋 そうか、彼女も東大大学院なんだよね。まあ、飯干さんとはそういうきっかけで知りあって、2度くらいお酒を飲んだりしたんだけど、その2ヶ月後にはあなたはサンフランシスコに飛んでってしまって。大学院まで出て、そっからまた向こうで実践の勉強をするっていうのは、これも、ノリって奴ですか?

飯干 まあ、そうだよね。何で今さら、みたいなことも言われたけどさ、結局今までやってきたのって、ある意味机上の空論で、言うのは簡単だけど、実際やってみるとそううまくはいかないってのはあると思ったのね。やってみなけりゃわからないっていうか、両方やんないと自分の気がすまなかったんだと思う。

大嶋 大学のころとか、もう少し早い時期にやっておいてもよかったような…

飯干 まあその時はその時で、やりたいこともいろいろあったし。遅いからいやめようっていうのはなかったのね。

大嶋 なるほど。それで、おととしから向こうで学校に通って…。学校は公立? 私立?

飯干 私立。あっちは映画学科がある公立もたくさんあるんだけど、施設が整ってるとこは少ないんだよね。うちはわりとその辺が充実してるらしいから、結構留学生も多くて。

大嶋 じゃあ東洋人も?

飯干 結構いる。日本人はもちろん、タイとか中国とか。別に偏見とかないんだけど、意志の疎通がしやすいのはやっぱ東洋人かも知れない。

大嶋 まあ、背負ってるカルチャーとか体質ってのもあるからね。カリキュラムはどういう感じなの?

飯干 大まかに言うと、フィルムヒストリー(映画の歴史)、プロデューシング(企画製作)、スクリーンライティング(脚本)、シネマトグラフィ(撮影)、ライティング(照明)、エディティング(編集)、アクティング(演技)なんかがあって、それぞれ、初級をクリアしないと次に進めないみたいになってて、1つの学期について4つは取らなくちゃいけないの。あとは、MPL(モーションピクチャーランゲージ)っていう基本中の基本みたいな授業が最初にあって、それはDVで1分くらいのものをテーマを決めて撮るのね。あとから編集出来ないから、撮影もきちんと順番を考えて。

大嶋 さすがにずいぶんシステマティックですなあ。演技なんかもやったの?

飯干 面白かったよ。やっぱりあっちの人間に比べて日本人て感情表現が薄いのか、「驚いてみて下さい」って言われて、一生懸命驚いてるのに、「いや、それじゃあ驚いてるように見えない。もっとオーバーにやれ」って(笑)。

大嶋 きみは日本人の中でも、特に表情に乏しい方だからじゃない?

飯干 まあそうなんだけどね(苦笑)。

大嶋 今日も写真ずいぶん撮ってるけど、何かどれも同じ顔のような…

飯干 普通の顔がさあ、ぶすっとして、不機嫌そうだとか言われるんだけど、しょうがないよね、デフォルトがそうだから。

大嶋 デフォルトがね! いいなあ、そのフレーズ。私の中で流行らせたい。








大嶋 学校って4年制だよね?

飯干 なんだけど、私は学士を持ってるから編入みたいな扱いで、専門の2年間だけ。

大嶋 てことは、もうすぐ卒業なんだ。じゃあ今は卒業制作作品を…

飯干 そう。今んとこ4月に撮影を考えてて…

大嶋 え、もうすぐじゃない。撮影は16oフィルム?

飯干 うん。卒制に関しては、400フィートで2本(約25分)までは学校で出してくれるのね、現像に関しても。でも、それじゃあ当然足りないから、あとは自腹で。

大嶋 そりゃあ大変だ。内容はどういう感じになりそうなの?

飯干 あんまり詳しく言えないんだけど、セラピーものを考えてて。私ウディ・アレンが好きでさあ。あの人の作品て、そういうの多いでしょ。

大嶋 お得意のアイテムだよね。でも実際アメリカ人て、ホント日常的にセラピストのとこに出かけてるみたいだからね。

飯干 日本はセラピーの代わりに、男はキャバクラ、女は占いに通ってるらしいよ。

大嶋 なるほどねえ、ああ、その感じわかる。

飯干 アメリカは、キャバクラみたいに横に座ってお酒飲みながら接客とかしちゃいけないから、ああいう風にお姉ちゃんと話してストレス解消ってのが出来ないみたい。

大嶋 じゃあキャバ嬢は日本におけるセラピストなわけね。まあ、たしかに、日本でもカウンセリングとかセラピーって、認識度は高くなってるとはいえ、まだまだ日常レベルには達してないし、だから日本で作ったセラピーものってあんまりうまく行ってないよね。そういう意味じゃあ、向こうで撮った方が無理がないのかも知れない。準備はどうすか?

飯干 まあ、山あり谷ありっていうか、結構ねえ、映画って人と人との関係の上に成り立ってるものから微妙だよね。ついこないだ、プロデューサーやってもらうことになってた人が降りたりして、ちょっと仕切り直しとか…

大嶋 まるで自分の話を聞いてるようだ(苦笑)。やっぱ、その辺の実務的なことは面倒くさいでしょ。

飯干 でも、こういうのも縁があって一緒にやってるわけだし、感謝と敬意を忘れないようにしないと。

大嶋 おお、なかなか言えない殊勝な発言! 飯干さん、苦労しましたねえ!










そうして飯干嬢はふたたび、遠いカリフォルニアの空の下へと帰っていきました(そういえば彼女の住んでるところの知事ってシュワちゃんなのね)。
相変わらずの鋭い舌鋒に、たじたじとなることが多かったものの、2年前とどこか変わったように感じたのは、あのころは理論だけだったのが、今は学校での実習製作を体験し、映画というものをとらえる視線が複眼的になったためでしょう。実践に裏打ちされた理論ほど強いものはありません。両方やって見ないと気がすまない、という彼女の主張は正しかったと思います。卒業後の進路はまだ白紙ということですが、もし縁があったら同じ作品で汗を流してみたいものです。でも当面は卒制がんばってね!
(2004/02/26)

 ←飯干真奈弥さんのサイトはこちら!


≪アーカイブへ
≪トップページへ