青江舜二郎 生誕百年記念イベント
「青江舜二郎とその時代」現場レポート(2)







第2部 「実験室」一部上映とキャストトーク

スクリーンもセッティング完了し、「実験室」の上映。しかし、時間の関係で、兼近、深瀬、営子がそれぞれの思いをぶつけ合う後半ハイライトシーンのみの披露となったが、この一連だけでも、演劇と映像の融合を狙った作品の意図は充分に伝わったと思う。その上映中に舞台そでからこっそり会場内に入り、客席の後ろの方で上映を見ていた加藤忠可、増沢望の両氏を呼び出す。そうしてふたたび舞台そでに戻ってみると、先ほどのもんぺ姿からエレガントな黒のワンピースに衣裳チェンジした以倉さんがすでに待機していた。そで幕の暗がりの中で「やあやあ」と挨拶を交わす3人。増沢さん、すかさず以倉さんを指差し「ベラ?(@「妖怪人間ベム」)」なんていう。かつての恋人役にそれは失礼だ!でも、そういう増沢さんの軽口を聞くのも久しぶりなのでこちらとしても嬉しい。
やがて「実験室」の上映も終了。村田さんと私が再度舞台に上がり、兼近役の加藤さん(なんと日大芸術学部演劇学科のOB)と営子役の以倉さん、そして深瀬役の増沢さんを紹介して作品についてのトークが始まった。

大嶋 順番にお聞きしたいんですけど、最初にこの「実験室」という作品の台本を読んで、どういう印象を持たれました?

加藤 今までやってきたのは、ほとんどがいわゆる現代劇でしたから、こういう近代戯曲みたいな、ひたすらセリフで押してくる芝居を自分がやることに戸惑いはありましたね。とにかくセリフの量がハンパじゃない、みんな喋り出したらとまらない、2ページ3ページ当たり前みたいな(笑)。しかもそれで、最初は稽古が2日とか3日とか言ってたでしょ?

大嶋 ああ、そんなこと言ってましたっけ。

加藤 普通の芝居は、一ヶ月はみっちり稽古しますからねえ。だから、映像作品とはいえ戯曲をやるわけだから、せめて10日は下さいと。

大嶋 それで、間を取って6日間になったんですよね。でも、加藤さんは段トツでセリフが多いからかも知れないけど、正月明けの本読みの時に、もうほぼセリフ入ってましたもんね。本読みなのに読まないで暗誦してる(笑)。あれにはみんなかなりプレッシャーを感じたみたいですよ。

加藤 だって、立ち(稽古)で台本持ちながらやってたら間に合わないでしょ。正月返上で必死に覚えましたよ。

大嶋 生物学の専門用語も多かったですが、あの辺の知識は?

加藤 いやあ、もう、何が何だか。いまだに人工受精と単為発生の違いがよくわかんなくて。

大嶋 演技を見てると、実にもっともらしく説明してますけどねえ。じゃあ、次に深瀬役の増沢さん、秩序をふりかざす兼近にどこまでも突っかかるあの役を、どういう風にイメージされました?

増沢 そうですね、まずこの時代特有の挫折感ていうのが背景にあって…、大嶋さんと最初に会った時、これは太宰だよねって話になって、それで僕も昔読んだ「斜陽」なんか読み返してみたんですが、日本人のアイデンティティというものがあの敗戦ですべて失われて、それならいっそ、壊れるんなら思い切り壊れてやろう、その先に何か見えてくるんじゃないか、みたいな彼の心情はある意味共感できるんですよね。これだけ深い挫折感みたいなものって、多分今のぼくらが生きてる時代じゃあ感じることは難しいと思うんですが。

大嶋 太宰自身も酒の飲みすぎや肺の病で喀血したりしてますけど、増沢さんの深瀬もなかなか…

増沢 でもあれはちょっと、咳こみすぎですね。あと、ウイスキーも飲みすぎ。30分くらいでボトル1本あけてますから。あれじゃ死ぬだろって(笑)。

大嶋 では最後に、岩のように動かない兼近と、波のように荒れている深瀬の狭間で翻弄される営子役をやった以倉さんですが、最初に台本を読んだ時の、営子の印象は?

以倉 最初に青江さんの原作を読ませていただいた時は、本当に女性の微妙な部分をうまく描いているなあ、と感激して読みました。これだけヒロインをきっちり描いて下さっていれば、ある意味やりやすいだろう、というのもあって。

大嶋 でも、その後私が少し手直しをして、特にラストの営子の描写は感じが変わりますよね。

以倉 ええ。私は青江さんのオリジナルも好きですが、大嶋さんが手を入れて下さったラストの方が、より自然に演じられました。

大嶋 そうですか?それならよかった。原作では、ラストに信一という兼近と営子の病気の息子が出てきて、ずぶ濡れで戻ってきた営子に「ママ。冷たいなあ。傘を持っていかなかったの?」と寄ってきて、それで営子に母性が蘇って元のさやに…、という感じだったんですけど、これってちょっと安っぽいなあと思ったんですよね、せっかくそれまでの展開がダイナミックなのに。まあ、これがあの時代の限界かも知れないんだけど、観るのは21世紀の我々なわけだから、このお話しはあくまでも兼近と営子の夫婦の問題ということにして、信一は最後まで出さないようにしたんです。そう言えば、加藤さんも、原作戯曲にはあって私がカットした、印象に残るセリフがあるとおっしゃってましたよね。

加藤 はい、ええと、…何だっけな?

増沢 (すかさず)印象に残ってないじゃん!(一同爆笑)

 と、突っ込まれまくりの加藤氏


加藤 ああ、そうだ、営子がいよいよ出ていくことになって、「君はそこまで考えてたのか」の前、兼近が営子に「君は僕の生活のことはどう考えてるの?僕の印税収入だけじゃとてもやっていけないんだ」なんて泣き言を言うんですよ。それまであれだけ偉そうに秩序だの何だの弁舌をふるっていたのに。しかもそれに対して営子は「それはあなたご自分でお考えなさい」なんてピシャリと言うんですよね。アタタタって感じで…。

大嶋 そうなんですよ。あそこは困っちゃいますよねえ…。まあ、青江にしてみれば、そういう、理想だけではやっていけないというところに人間のリアリティがある、と思ったんでしょうが、ちょっとキャラクターの破綻を招きそうなのでカットしました。まあ、その結果、兼近がカッコよくなり過ぎたかも知れませんが…。

増沢 根本的なところで、女性には絶対かなわないっていうのが(作者の中に)あるんじゃないですか。深瀬も、営子の純情を信じてついて来たわけでしょ。でも途中で嘘を知らされる。深瀬が想像していた営子よりも実物は一枚上手だった。女性がまさに女性として現実に起こす行動と、男性が女性に対して抱く幻影と。その辺のギャップっていうのがうまく描かれてますよね。

大嶋 なるほど。こうやってお話をうかがっていると、岩からもげた根無しの海草みたいに言われていますが、実は一番したたかなのが営子なんじゃないかと。以倉さんは、そのあたりのことは演じながら意識していたんですか?

以倉 ええ、まさに女性そのものだと。

大嶋 おお、なかなか大胆なご意見を!


 営子は女性そのもの、と以倉嬢


大嶋 演劇の持つ迫力に押されて、映像作品でありながら、ほとんどノンストップで収録したんですが、稽古中または収録中の思い出などありましたら。

加藤 とにかくセリフを入れてくる作業に追われてましたね。一度入れたものをクールダウンして、もう一回作るっていうことが出来れば、仕上がりも違うものになってたかも知れません。

大嶋 なるほど。増沢さんは?

増沢 加藤さんともかぶるんですが、たいてい芝居って、一回作りあげて、ちょっと頭打ちになって、そこで寝かすっていう段階が必ずあるんですが、今回はそういうたるみの時間さえなく、駆け足でマックスまで行った感じで…。出来上がったDVDを自分で見ても、果実で言うと、まだ熟してないものをブチッともき取ったみたいなフレッシュさがあって、そういうのもまた面白いですよね。常にやっていく中での発見があって、それを追いかけていくうちに本番になってた、という意味では大変刺激的な6日間でした。

大嶋 以倉さんは?

以倉 まわりの方が本当に素敵で、そういう中でお芝居ができることが光栄で、一生懸命やるしかないっていう現場でした。

大嶋 以倉さんはこの「実験室」のほかに、本日「崖」も演じられて、青江作品を2本体験されたんですが、作家の特質とか個性みたいなものを何か感じますか?

以倉 そうですね。先ほどの話と重複してしまうんですが、あの時代の方で、これほど女性というものが描ける劇作家は珍しいのではないか、という印象を受けます。私もまあまあ近現代の小説や戯曲は読んでいる方だと思うんですが、そういう中でも、これほど私の持っている女性観というものにぴったりはまることを書いてくれる作家は初めてだったので…。

大嶋 そうですか。それは是非あやかりたいですねえ。まだまだお話ししたりないのですが、そろそろ時間ということで。みなさん、今日はどうもありがとうございました。

というわけで、約15分のトークは終了。余裕のないスケジュールだったと言いつつ、実際には加藤さんが稽古帰りの飲み会には一番積極的だったなど、現場でのアットホームな雰囲気を伝えられる話がほとんど出なかったのが残念だったが、青江舜二郎という劇作家の、「近代」的戯曲を、「現代」に生きる俳優たちが並々ならぬ興味を抱きつつ演じてくれた様子はよく伝わってくるトークだった。

ここで約10分の休憩。そう、実はここまででやっと折り返しなのである。後半はいよいよ、大御所たちとのシンポジウムが控えている。
(2005/08/01)

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